- 指定薬物の事件で執行猶予を得られるのか
- 指定薬物の事件で執行猶予を決めるための条件に何がある
- 指定薬物の事件で執行猶予を得るために弁護士は何ができるのか
危険ドラッグなどに含まれる、指定薬物に関連する事件では、執行猶予を得ることはできるのでしょうか?薬物事件は使用・所持した場合には実刑を受けることが多く、執行猶予を得ることは難しいと感じる方も多いかもしれません。
今回は、薬物に強い専門弁護士が、指定薬物に関する執行猶予の概要、執行猶予期間を決めるための条件、弁護活動について、詳しく解説していきます。
この記事を監修したのは
- 代表弁護士春田 藤麿
- 第一東京弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設
指定薬物の執行猶予とは
まずは指定薬物事件に関わる、全部執行猶予と一部執行猶予を解説します。執行猶予とは、被告人の状況を考慮して社会での更生が可能であると裁判官が判断したときに、刑の執行を猶予する制度です。
指定薬物に関連する事件で逮捕されても、社会復帰の機会を奪わないための制度でもあり、「懲役または禁錮3年以内」の犯罪の場合にのみ行われます。このような刑事罰で、被告人の反省の念が強い場合には、実刑を受けるとかえって社会生活の復帰が難しいと考え、執行猶予を与えられるケースが多くあります。
たとえば懲役2年執行猶予4年であれば、4年間は懲役2年の刑の執行が猶予されます。この間犯罪を起こすことなく4年間経過すれば、懲役2年すべてが免除となります。これを「全部執行猶予」といいます。
「全部執行猶予」に対して「一部執行猶予」という制度もあります。平成28年6月1日に施行された「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」に基づくもので、大麻取締法・毒物及び劇物取締法・覚醒剤取締法・麻薬及び向精神薬取締法・あへん法で規定されている薬物に関する一部の罪について、刑の執行を一部のみ猶予するという方法です。
一部執行猶予がついた場合の判決として、たとえば「懲役2年、そのうち6ヶ月の執行を2年間猶予する」等があります。最初に1年半は実刑として服役し、残り6ヶ月については2年間の執行猶予を受けるということです。一部執行猶予の場合は、執行猶予期間中に保護観察がつきます。
執行猶予になったからといって前科がつかない、ということではありません。全部執行猶予・一部執行猶予どちらにおいても、裁判で有罪になった時点で前科がつきます。また、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」においては「規制薬物」が対象となっており、指定薬物は対象外であることに注意が必要です。
指定薬物で執行猶予期間を決めるためのポイント
指定薬物で執行猶予期間を決めるためのポイントとして、以下を説明します。
- 初犯か再犯か
- 情状証人の有無
- 再犯防止策が定められているか
- 薬物に強い弁護士への依頼しているか
それぞれ、解説していきます。
初犯か再犯か
指定薬物で執行猶予期間を決めるための1つ目の条件として、初犯か再犯かがあります。
執行猶予は更生して社会復帰するチャンスを奪わないための大切な制度です。軽い罪や本人に反省の意志があった場合に実刑判決としてしまうと、社会復帰が大変難しくなります。その結果、再び指定薬物に手を出してしまう可能性も高まります。
したがって、初犯であれば罪がまだ軽く、弁護士のサポートによって本人の更生・社会復帰が十分に可能と判断され、執行猶予を獲得しやすいです。再犯の場合、初犯よりも執行猶予は獲得しにくいといえますが、絶対に獲得できないわけではありません。ただし再犯の場合は、初犯よりも重い刑罰が科せられる傾向にあり、一部執行猶予も得られない可能性も高いため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
情状証人の有無
指定薬物で執行猶予期間を決めるための2つ目の条件として、情状証人の有無があります。
情状証人の存在は執行猶予を得られるかどうかに対して大きな影響を与えるといえます。執行猶予を獲得するうえで、再犯を抑制できると判断されるかは重要な要素です。
そこで、被告人の情状に関して証言する情状証人が存在し、その監督・サポートによって、本人の再犯を抑制できれば更生できる可能性が高いと判断されて、執行猶予を得られやすくなります。情状証人は多くの場合、被告人の親・配偶者・同居の親族がなります。
再犯防止策が定められているか
指定薬物で執行猶予期間を決めるための3つ目の条件は、再犯防止策が定められているかどうかです。
本人に再犯の可能性が少なければ、執行猶予を得られる可能性が高いといえます。そのため、被告人側の主張に、再犯防止策がしっかりと定められているかが、指定薬物事件においても執行猶予を決める大切なポイントです。
再犯防止策は具体的な内容を伴う必要があります。特に指定薬物であれば「自治体更生プログラムの実施・更生施設への通所・心療内科への通院」などによる第三者支援機関を利用し、積極的に指定薬物から離れていくという姿勢が重要です。
また、家族など周囲の協力や監督が受けられるかも重要な要素となります。情状証人にならなかったとしても、本人へのサポート体制や監督体制がどの程度かで再犯率が変わるといえます。できる限り周囲の協力を得られるように、弁護士に相談してください。
薬物に強い弁護士への依頼
指定薬物で執行猶予期間を決めるための4つ目の条件は、薬物に強い弁護士への依頼です。
弁護士は、専門分野がある程度決まっています。たとえば離婚問題に強い弁護士に薬物事件の依頼をしても、良い結果を得にくいでしょう。弁護士に依頼する前に、薬物事件を多く手がけている弁護士事務所かをWebサイトなどで確認することをおすすめします。
薬物事件の経験が豊富な弁護士は、逮捕後に警察や検察からどのような取り調べを受けるのか、どのような対応が効果的かを熟知しています。執行猶予を得るために必要な主張についても理解しています。
薬物事件は明確な証拠があることが多いため、被告人が一人で主張をしても説得力に欠けます。薬物事件に強い弁護士がいれば、過去の経験から説得力を持ってしっかりと主張することができるでしょう。薬物事件に強い弁護士に依頼をすることが、指定薬物関連の事件で逮捕された場合でも執行猶予を得られるための重要なポイントとなります。
指定薬物所持で執行猶予を得る弁護活動
ここまで、指定薬物について、問われる罪や逮捕後の流れについて説明しました。それでは薬物事件に強い弁護士に依頼すれば何をしてくれるのでしょうか。ここでは、指定薬物所持で執行猶予を得るための弁護活動について、以下3点を説明します。
- 接見
- 保釈請求
- 家族サポートの依頼
それぞれ、解説していきます。
接見
弁護士は逮捕後の依頼者に接見し、事実を確認の上、その後の対応を決めていきます。依頼者が騙されて指定薬物を使用していた場合などには、不起訴処分を目指して活動します。
本人が指定薬物を相当量輸入していた場合は、起訴が避けらないため、起訴を前提として動きます。具体的には、保釈請求の準備、判決で執行猶予を得やすいように常習性や悪質性を認定されないための取り調べのアドバイスを接見で実施します。
保釈請求
弁護士の活動として、起訴後の保釈請求があります。指定薬物事件は、逮捕されると起訴率が高いです。事件のほとんどは指定薬物を押収されており、物的証拠となっているため「嫌疑なし」「嫌疑不十分」になりにくいという事実があります。そのため、最初から起訴を前提として保釈請求の準備を整えることも多いです。
保釈には「権利保釈」「裁量保釈」があります。例外事由に当てはまらないことを条件として釈放されることを権利保釈といいます。権利保釈が認められない場合には、裁量保釈が検討されます。権利保釈・裁量保釈の場合は、保釈しても問題ない・証拠隠滅や逃亡の可能性はないことを弁護士から正しく主張する必要があります。
家族サポートの依頼
弁護士は、依頼者の家族に対して、サポートの依頼を行います。指定薬物で執行猶予を獲得するためには、情状証人の有無、もしくは再犯防止策が定められていることが必要です。
そのため、家族に情状証人として証言台に立つことを依頼したり、再犯防止サポートを家族に依頼したりしていきます。また、家族以外にも、依頼者の周囲に対して協力を得られるよう働きかけ、依頼者に必要な更生プログラムを提示することも、執行猶予を得るために重要な弁護活動の一つです。
まとめ
本記事では、薬物に強い弁護士が指定薬物に関する執行猶予について、執行猶予期間を決めるために必要な条件、必要な弁護活動を解説しました。
執行猶予はあくまでも、被告人に対して円滑な社会復帰を促すためのものです。被告人に反省の意志が強く見られること、執行猶予期間も再犯しないことをしっかりと伝えることが重要です。
薬物に強い弁護士は、指定薬物事件において、どのような主張が執行猶予獲得に有効かを知り尽くしています。もしも指定薬物を疑われ、起訴される恐れがあるのなら、できる限り早く相談することをおすすめします。本人が執行猶予を得て円滑に社会復帰するためにも弁護士の存在が必要です。
この記事を監修したのは
- 代表弁護士春田 藤麿
- 第一東京弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設