- 大麻事件で逮捕されたが懲役刑になるのか?
- 大麻事件では懲役刑は免れないのか?
- 大麻事件で懲役刑にならない方法を知りたい
大麻事件で逮捕されれば起訴され、裁判で懲役刑になってしまうのではないかと不安を覚えている人もいることでしょう。大麻事件を犯しても、懲役刑を免れることはできないものかと望みを持っている人もいるかも知れません。
そこで今回は、薬物事件に精通している実績のある専門弁護士が、大麻で懲役刑になる前に知っておきたい基礎知識・懲役刑になるまでの流れなどについて解説します。
この記事を監修したのは
- 代表弁護士春田 藤麿
- 第一東京弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設
大麻で懲役刑を回避するために知っておきたい基礎知識
ここでは、大麻で懲役刑を回避するために知っておきたい基礎知識について2つ解説します。
- 大麻事件に関連する法律
- 大麻事件で懲役刑が言い渡される可能性は?
1つずつ解説します。
大麻事件に関連する法律
1つ目は、大麻事件に関連する法律についてです。
大麻に関連する法律は、大麻取締法という法律です。
大麻取締法で規制対象とされている「大麻」とは、大麻取締法1条にあるとおり、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)およびその製品をいいます。
大麻に含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)と呼ばれる物質が幻覚作用をもたらすため、テトラヒドロカンナビノールが含まれない大麻草の成熟した茎やその製品(樹脂を除く)・種子およびその製品は、「大麻」に含めていません。
大麻取締法は、都道府県知事の免許を受けた大麻取扱者である大麻栽培者および大麻研究者でなければ、大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、または研究のため使用してはならないと規定しています。
大麻取締法では、所持、譲渡・譲受、栽培、輸出入が罰せられますが、使用(吸引)についての処罰規定はありません。言い換えれば、使用(吸引)したかどうかは関係なく、大麻を「所持」しているだけで犯罪を犯しているということになります。
大麻事件で懲役刑が言い渡される可能性は?
2つ目は、大麻事件で懲役刑が言い渡される可能性についてです。
令和2年版犯罪白書にある「薬物犯罪 地方裁判所における有期刑(懲役)科刑状況別構成比(罪名別)」によれば、有罪の総数が1,778人で、全部実刑が213人(実刑率12.0%)、一部執行猶予を含む執行猶予が1,564人(執行猶予率88.0%)となっています。
このように多くのケースで執行猶予がついていますが、これは初犯者が多いからです。再犯者の場合に実刑判決となる可能性は高くなります。
大麻で懲役刑になるまでの流れ
ここでは、大麻で懲役刑になるまでの流れについて4つ解説します。
- 逮捕
- 勾留
- 起訴・不起訴の処分
- 公判
1つずつ解説します。
逮捕
1つ目は、逮捕についてです。
逮捕には、通常逮捕(後日逮捕)、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。通常逮捕(後日逮捕)とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに相当な理由があるときに、検察官・検察事務官または司法警察職員が裁判官のあらかじめ発する逮捕状により被疑者を逮捕することをいいます。
次に、現行犯逮捕とは、誰もが、逮捕状がない状態で逮捕することをいいます。たとえば、挙動不審者として職務質問をした際、所持品検査を実施して大麻を発見したことにより逮捕する場合です。
最後に緊急逮捕とは、検察官・検察事務官または司法警察職員が、
「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときに」
その理由を告げて被疑者を逮捕することをいいます。
大麻事件では、通常逮捕・後日逮捕によって拘束されることが多い傾向にあります。
勾留
2つ目は、勾留です。
まず司法警察員は、「直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨」を逮捕された被疑者に対して告げて弁解の機会を与えます。
そして勾留の必要があると判断すれば、被疑者が身体を拘束されたときから48時間以内に、書類および証拠物とともに被疑者を検察庁に連行して、検察官に送致する手続きをとります。
検察官は、司法警察員から送致された被疑者を受け取ると、まず被疑者に弁解の機会を与えます。その上で勾留の必要があると判断すれば、被疑者を受け取ったときから24時間以内、かつ最初に被疑者が身体を拘束されたときから72時間以内に、裁判官に被疑者の勾留を請求します。
そして、裁判官が勾留を決定すると10日間、身柄拘束されることとなります。
起訴・不起訴の処分
3つ目は、起訴・不起訴の処分についてです。
10日間の勾留期間が経過したあとは、さらに10日間の勾留期間の延長が可能であり、勾留請求の日から最長20日間の勾留となる場合もあります。逮捕による最大72時間の拘束時間を合わせると、身柄拘束期間は最長で23日間となります。
勾留期間は原則として10日間ですが、勾留期間が延長された場合にはその勾留期間内で、起訴・不起訴が判断されます。
検察官は、受理した大麻事件の被疑事実について、的確な証拠に基づき有罪判決が得られる見込みが高い場合は、原則として起訴します。一方で起訴しない場合には「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」などの理由で、それぞれ不起訴の処分をします。
公判
4つ目は、公判についてです。
公判の手続きは、検察官の起訴によって開始されます。大麻事件の法定刑は罰金のみではないため、起訴された場合には裁判は必ず公開の法廷で行われます。
公判の手続きは、以下のように進められます。
- 冒頭手続き
- 証拠調べ手続き
- 論告・弁論
- 判決の宣告
1つずつ見ていきましょう。
冒頭手続き
冒頭手続きは、以下の流れで行います。
1.人定質問
裁判官が被告人に氏名などを質問し、被告人が検察官により起訴された者に間違いないかどうかを確かめます。
2.起訴状朗読
検察官が起訴状を朗読します。
3.黙秘権等の告知
裁判官が被告人に対し、黙秘権等の権利を説明します。
4.被告事件に対する陳述
被告人と弁護人から起訴状に対する言い分を聞きます。
証拠調べ手続き
証拠調べ手続きは、以下の流れで行います。
1.冒頭陳述
まず、検察官が、証拠によって証明しようとする事実を述べます。
これに続いて、弁護人が冒頭陳述をすることもあります。
2.検察官の立証
刑事裁判では検察官に立証責任がありますので、まず、検察官が証拠の取調べを請求し、これに対する被告人側の意見を聴いた上で、裁判所は、個々の証拠を採用するかどうかを決定し、採用した証拠を取り調べます。
3.被告人側の立証
検察官の立証後に、被告人側の立証が行われます。
裁判所は、検察官の立証と同様に、被告人側が取調べを請求した証拠を採用するかどうかを決定し、採用した証拠を取り調べます。
4.被告人質問
被告人には黙秘権がありますが、被告人が自ら答えるのであれば質問できます。
論告・弁論
弁論手続きは、以下の流れで行います。
1.検察官の論告・求刑
証拠調べ手続きが終わりますと、まず、検察官が事実関係や法律的問題などの意見を述べ(論告)、被告人に科すべき刑について意見を述べます(求刑)。
2.弁護人の弁論
次に、弁護人が事実関係や法律的問題などの意見を述べます(弁論)。
3.被告人の最終陳述
最後に、被告人も意見を述べることができます。(弁論終結・結審)。
判決の宣告
裁判所が、被告人に対し、判決の言渡しをします。裁判所は、証拠を検討した結果、被告人が罪を犯したことに間違いないと考える場合には、有罪判決を言い渡しますが、被告人が罪を犯したことに確信が持てない場合には、無罪判決を言い渡します。
有罪判決の場合には、どのような刑を言い渡すかを決めます。具体的には、上述した大麻事件であれば、懲役、または懲役と罰金の併科の刑の種類とともに、懲役の期間や罰金額も決めます。言い渡す刑には、実刑と執行猶予の場合があります。そして、執行猶予を付する場合には、その執行猶予の期間を定め、さらにその間保護観察を付すこともあります。
大麻で懲役刑を回避できる可能性があるケース
ここでは大麻で懲役刑を回避できる可能性があるケースについて3つ解説します。
- 初犯
- 悪質性が低いこと
- 自首するときに弁護士に同行してもらう
1つずつ解説します。
初犯
1つ目は、初犯です。
検察官が起訴猶予にするかどうかは、大麻事件の被疑事実が明白な場合において、個々の大麻事件について諸般の事情を考慮すべきだといえます。しかし最も重要な点は、刑罰を科さないことが犯人の社会復帰を著しく容易にするかどうかや、刑罰を科さなくても社会秩序の維持を図ることができるかどうかであるとされています。
たとえば前科前歴のない初犯で、普段はまじめに生活していること、常習性がないこと、営利目的による犯行ではないこと、大麻に対する依存性や親和性が低いこと、悪質性が低いこと、更生の意欲を示していることなどを検察官に伝えます。そうすることで、起訴猶予による不起訴処分が得られる可能性が高まります。
悪質性が低いこと
2つ目は、犯罪の悪質性です。
大麻の所持量が多ければ、営利目的が疑われるでしょう。大麻事件で起訴猶予になるためには、犯罪の軽重(大麻事件として重大悪質かどうか)が重視され、反省悔悟の有無や犯人の生活状況・身元引受人の有無・保護環境の有無・前科前歴の有無などの事情も重視されるといえます。
大麻事件といっても、営利目的を伴うものもあり、犯行の態様も、所持・譲渡・譲受・栽培・輸出入などと一律ではなく、態様ごとにその悪質性にも違いがあります。
しかし、微量といえる大麻を所持していたという場合には、所持としての悪質性は低いといえますので、大麻事件での前科前歴がなければ、起訴猶予による不起訴処分の可能性が高まります。
自首するときに弁護士に同行してもらうこと
3つ目は、自首するときに弁護士に同行してもらうことです。
自首とは、犯罪事実または犯人が誰であるかが捜査機関に発覚する前に、捜査機関に対して自ら自分の犯罪事実を申し出て、その処分をまかせることをいいます。
自首は、訴訟法上は単なる捜査の端緒にすぎませんが、実体法上は刑を減軽してもらえる可能性があります。
検察官から見れば自首は反省悔悟と更生の意欲の表れと評価できるため、同種の前科前歴・不起訴処分を不相当とする事情がない限り、起訴猶予の不起訴処分の可能性が高まります。
そのため自首する前に弁護士事務所に出向き、逮捕されたあとで必要となる事務的な処理や心配になることを相談したり、取調べの際の心構えについてアドバイスを受けたりするとよいでしょう。
同時に、今後の戦略を立ててもらうなどして、自首するときに弁護士に同行してもらえば懲役刑を避けられる可能性があるという見通しを持って落ち着いた気持ちで自首できるといえます。
大麻事件に強い弁護士が懲役刑回避のために取る行動
ここまで、懲役刑が確定するまでの流れを解説しました。以上の流れを踏まえ、大麻事件に強い弁護士が、懲役刑回避のために取る行動について3つ解説します。
- 依頼と同時に弁護活動を開始
- 不起訴・無罪のための主張
- 身柄拘束からの解放
1つずつ解説します。
依頼と同時に弁護活動を開始
1つ目は、依頼と同時に弁護活動を開始してくれることです。
逮捕されている場合、最短での釈放を目指すためには初動を迅速にする必要があります。親族が依頼すれば、即時に弁護活動を迅速に開始してくれます。また方針によっては深夜でも被疑者の釈放に向けて動いてくれる弁護士もいます。
不起訴・無罪のための主張
2つ目は、不起訴・無罪のための主張をすることです。
起訴・不起訴の判断は、検察官が勾留期間の満了日までに行います。
弁護士は、検察官に面談を申し入れるなどして、起訴猶予の不起訴処分にするよう働きかけます。具体的には、被疑者が大麻事件の被疑事実を認めている場合には「大麻に対する依存性または常習性がないこと」「再犯の危険がないこと」などを主張することとなります
身に覚えのない事件であれば、捜査段階の場合には警察や検察などの捜査機関や勾留担当の裁判官に対して、また公判段階の場合には裁判所に対して、徹底して無罪を主張します。加えて違法捜査がなかったかを確認し、もしあるのであればその旨を主張します。
さらに、大麻事件の嫌疑がなかったり、嫌疑が不十分だったりする場合には、裁判になれば無罪になる旨を主張して、不起訴処分にするよう検察官に働きかけます。また、勾留担当裁判官にも、勾留決定をしないよう求めます。
身柄拘束からの解放
3つ目は、身柄拘束からの解放についてです。
身柄拘束が長引けば、被疑者の解雇や退学の危険が高まります。被疑者が一家の支柱であれば、家族に与える経済的・精神的な負担は大きく、家族の日常生活への影響は避けられません。
弁護士は、検察官に面談を申し入れて勾留請求や勾留期間の延長請求をしないよう申し入れます。
また、勾留請求や勾留期間の延長請求がされた場合には、担当裁判官に面談を申し入れて勾留決定や勾留期間の延長決定をしないように働きかけます。このように被疑者の身柄拘束からの解放に向け手を尽くします。
さらに、勾留決定や勾留期間の延長決定がされた場合には、準抗告を申し立てて、身柄拘束の理由や必要のない旨を主張し、被疑者の身柄拘束からの解放を目指します。
まとめ
今回は、薬物事件に精通している実績のある専門弁護士が、大麻で懲役刑になる前に知っておきたい基礎知識・懲役刑になるまでの流れなどについて解説しました。
大麻事件を犯したとしても、何とか不起訴処分で終われないものかと考えている者にとって、弁護士ほど心強い味方はいません。
早期に弁護士に依頼すれば、身柄拘束からの解放が得られ、最小限の不利益にとどめることも可能になります。大麻事件で逮捕された被疑者や家族の方は、前科の付かない不起訴処分を獲得するためにも、ぜひ一度専門の弁護士に相談することをおすすめします。
この記事を監修したのは
- 代表弁護士春田 藤麿
- 第一東京弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設